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カニバリズム(人肉食い)を扱ってはいるが、この映画はホラーではないのかもしれない。ジュリア・デュクルノー監督の『Raw(英題)』は、獣医学校に入学した女子学生がカニバリズムに目覚めていく過程をゆっくりと描いていく。
16歳の主人公、ジュスティーヌは獣医一家に育ったベジタリアンだ。姉も通う獣医学校に進学した早々、上級生から生肉を食べさせられ、体に変調をきたす。これをきっかけに、彼女の本性が露わになっていく。

カニバリズムをテーマにした作品といっても、ゾンビ物の映画のように、人々が人肉食いの化け物に襲われ、むしゃむしゃと肉が食われていくという映画ではない。あくまでも、一人の少女が自らの人肉食いという本性に気づき、それと対峙していこうという姿を追った作品になっている。

カニバリズムというおぞましい世界を描きつつも、本作に登場する荒涼とした風景は静かで美しい。絵画的ですらある。グロテスクなシーンも多いが、恐怖のための恐怖といった演出をしていないので、けっして怖くはない。恐怖演出としてはむしろ冗長ですらある。物語の範囲も獣医学校内に限定されており、広がりがあるわけでもない。また、結末に意外性があるわけでもない。

では、この映画の魅力とは何なのだろうか。16歳のジュスティーヌは今後、自分の運命と向かい合っていかなければならない。あまりにも長いこれからの人生、彼女はどうやって生き抜いていくのだろうか。そう考えてみると、切なさを感じざるを得ない。この映画は自分の運命を受け入れざるを得ない少女の心の葛藤を描いた人間ドラマなのだ。


(2017年6月25日午後9時20分、TOHOシネマズスクリーン3、フランス映画祭)(矢澤利弘)