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 『シルビアのいる街で』などの作品で知られるスペインの国際的な映画作家、ホセ・ルイス・ゲリン監督は27日、広島市映像文化ライブラリーでティーチインを行った。

 当日は日本でも2010年に劇場公開された『シルビアのいる街で』が上映された。ゲリン監督は同作で、「自分の夢の女性に実際の街で出会うということを主観的に表現しようと思いました」と語った。

 「自分にとって、監督として撮影するときには、主観と客観との葛藤が大事です。主人公は女性を探しますが、自分が探しているのと違う他の女性や街を見ます。この映画には抽象的なことと具体的なことがでてきますが、主人公の視点から、風景や音が変わってきます。それがどのような効果を上げるかを大切にしました」。

 『シルビアのいる街で』はストラスブールでロケ撮影されたが、映画の後半部分には、路面電車が出てくるなど、広島市にも似ている。

 「広島でリメイクが作られたらうれしいです。時間がなかったため、まだ広島を歩いてはいませんが、この映画では、主人公が女性を迷路のような路地のなかを追いかけていきます。そういうことを内容に込めながら、迷路を歩く感じを出せると思います。私は様々な町へ行きますが、その地の特有の空間や音が出せることを大切にしています。もし私が広島で映画を撮影することになったのなら、広島特有のものを探して、広島の映画を作りたいと思います。私にとって、路面電車はとても大切なものです」。

 現在開催中のゲリン監督の特集上映のなかでも上映された『イニスフリー』は、ジョン・フォード監督の『静かなる男』のロケ地を舞台としている。

 「ジョン・フォード監督は、小津安二郎とともに、映画人としてよりも人間として、私の感覚を育ててくれた人です。二人はそれぞれの世界を持っていますが、彼らは私に家族のような思いを抱かせます。ジョン・フォードや小津の映画の登場人物も自分の家族のような気がしています」。

 「小津監督は、私にとって本質的なところにある監督です。小津の全ての作品を見ていますが、私が日本に惹かれているのは小津の作品を見たからだと思います。『生まれてはみたけれど』・・・など、日本語で知っているのは小津監督の作品名です。小津作品は自然です。(芸術として)ものを作る人というよりも、自然に映画を作った人です。松竹の撮影所にも歩いて通っていたそうです。普通の仕事をしにいくという感じで通っていて、アーティストというよりも、自分を職人だと思っていたというのは、あるべき姿だと思います」。

 「小津は日常の小さな仕草から人間というものをすばらしく表現することができる監督だと思います。例えば、リンゴの皮をむくという行為から、世界のすべてを表現できる人であり、映画の大きな可能性を示した人です」。

 ゲリン監督の映画は概して説明が少なく、物語性が希薄だと言われる。それに対して、ゲリン監督は「私はストーリーの足りないところに面白さがあると思っています」と説明する。

 「人の意識がはっきりしないところが大事だと思っています。『シルビアのいる街で』で、主人公の青年は誰なのか、ということになれば、観客は何も知らないことになりますし、どんな仕事をしているのかも分かりません。映画監督が女優を探しているのかもしれませんし、変質者かもしれません。まったく白紙です。見たままの情報しか入ってきません。風景のなかで、この人が何をしているのかが少しずつ分かってきます。私がストーリーを入れてしまったら、観客から想像する機会を奪ってしまいます。それで、物語を入れずに、映像と音だけから観客が考えてくれるのが大事なのです。物語は邪魔になるかもしれません。物語がある映画もたくさんありますし、無いものもたくさんあります。色々な映画があるのです」。


(2014年4月27日午後12時、広島市映像文化ライブラリー)(矢澤利弘)