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(チ・ソンウォン、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2011にて)

人口9人の孤島を舞台に、虐げられた人間の暴力性を描いたいたチャン・チョルス監督の衝撃作『ビー・デビル』(3月26日よりシアターN渋谷ほかにて全国順次ロードショー)。ソウルで働く美しい独身女性のヘウォン役として出演したのが、チ・ソンウォンだ。

ソンウォンが女優になったのはほんの偶然からだった。20歳まではフルートをやっていた彼女。姉はモデルで、ミス・コーリアにでも出られるぐらいの美人の誉れ高い女性だった。そんな姉がテレビのタレント公開採用コンテストに応募するというので、母親から彼女も応募したらどうかと勧められ、軽い気持ちで応募した。ところがソンウォンだけが合格。それがきっかけで芸能界に入ることになった。


『ビー・デビル』には残虐なシーンも多く登場する。だが、マネジャーが持ってきた脚本は一気に全部読み切ってしまった。「非常にしっかりしたシナリオでした。もちろん残酷なシーンもありますが、ただ殺すのではなくて、きちんと理由のある正統なものです。ずっと虐待されてきたことに対する復讐劇ですし、社会的なイシューもあり、メッセージの込められた映画です。これに自分が出演しなければ後悔するのではないかと思いました」。


確かに、この作品には大量殺人が行われる部分がある。ただ、作品の本質は人間ドラマだ。抑圧された人間が狂気に至までの過程をていねいかつしっかりと描いている。だから、残酷なシーンであっても共感があり、説得力があるのだ。

『ビー・デビル』では男性が非常に権威的で暴力的な存在として描かれている。だが、この映画は表面的に男尊女卑を描いた映画かといえば、そうではない。


島における男性と女性の関係は、強い者と弱い者との対比として見ることができる。「現代社会では、女性が強くなってきているので、もしも映画の中のような行動をする男性がいたら、大変なことになります。もちろん映画のようなことは韓国の社会にはありません。どこの国にも女性を虐待するような男性はいますが、それは絶対に一般的な姿ではありません。最近は女性の逆襲が怖いですよ」とソンウォンは笑う。

映画は二人の幼なじみを中心にストーリーが展開していく。一人は化粧や飾り気というものを知らず、孤島で暮らす女性のボンナム(ソ・ヨンヒ)。もう一人は ソウルで働き、現代都市を代表する女性であるヘウォン。女優二人の演技が非常に対照的だ。「監督と話したのですが、お互いのバランスを重視しました。それ はコップに入った水だと思います。コップが揺れても水がこぼれない程度のレベルを保たないといけない。緊張感があって、少しタイトな感じでということです ね」。ただ、ソンウォン自身の本当の性格は自由奔放で、ヘウォンとは違うと打ち明ける。

二人の対比を強調するため、撮影中は苦労も多かった。例えば、二人の肌の色や質感だ。「私は非常に日焼けしやすい体質なので、撮影中はいつも日傘を差したり、日焼け止めクリームを塗ったり、手袋をしたりして、日焼けをしないようにするのが大変でした。逆に、ソン・ヨンヒさんのほうは顔を赤茶けた感じにするために、私とまったく逆のことをしました」。


ソウルという都会にいるヘウォンは非常に脆弱でガラスのようにナーバスで色々なことに対して恐怖感を持っている女性。それに対して島に滞在するヘウォンは心が解放されたような雰囲気を醸し出しており、ソンウォンの演技には見事なコントラストが付けられている。「私も地方の出身なのですが、地方から都会に出てきたときには私も怖かったということを思い出しながら演技をしました。島に行ったヘウォンの場合は、私も本当のふるさとに帰ったような気持ちで、くつろいだ感じで演技をしました」。


『ビー・デビル』は3月26日よりシアターN渋谷ほかにて全国順次ロードショー公開される。「残酷シーンを見せようとして撮っているような作品もありますが、この映画は違います。この映画は弱者に対して無関心であることについて、観客の皆さんにもう一度考えて欲しいというメッセージがあります。2時間という上映時間内に緊張感があふれ、目が離せないしっかりとした映画になっていると思いますし、スタッフや多くの人々が頑張って作った映画です。見た人の心に残る映画になってもらえたらと思っています」。


『ビー・デビル』サブ

(幼なじみを演じるチ・ソンウォン(右)とソン・ヨンヒ(左)(配給:キングレコード)

(取材・文:矢澤利弘)